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インタビュー 産業部航空技術1課 佐藤技師
世界中11人のうちの1人
国産旅客機としては約50年ぶりとなった今回の「初飛行」というイベント。
日本の航空史に残るイベントに参加できた・・・
しかも随伴機に乗って空中で見ることができたということは、
本当に運が良かったと思っています。
当日、地上からこの初飛行を見た人は数千人いるでしょう。
ニュース映像や配信映像で見た人は数千万人いるでしょう。
しかし、この初飛行の日に、太平洋上で飛行する機体を「自分の眼で」で見ることのできた者はわずか「11名」・・・
その中の一人に自分がいたということは、十分に「自慢」できることだと思っています。
――佐藤
今回取材したのは、産業部航空技術1課の佐藤さんです。
佐藤さんは20年のカメラマン歴を持ち、今回の国産旅客機初飛行イベントの空撮を担当しました。
Q:今回開発中の民間旅客機の空撮カメラマンを担当されましたが佐藤さんの役割を教えてください。
初飛行機体の静止画撮影を担当しました。
Q:空撮というのは、どのように行うのでしょうか?
小型ジェット(チェイサー機)に搭乗して、小さい窓越しに、望遠レンズで、遠方の機体を追います。
Q:今回の空撮では狙った写真は撮れましたか?お客様の反応は?
狙った写真が撮れたかというと微妙なところでした。
リハーサルまで行って入念な準備をしていたが、やはり「本番」はリハとは全然状況が変わり、ほとんど「ぶっつけ本番」状態でした。
ただ、お客様の反応は上々で、正直ホッとしました。
Q:通常の撮影対象と空撮では、どのような違いがありますか?
通常は「動かないもの」を撮るのがメインのため、まったく普段のノウハウが生かされない状況でした。
揺れはシャッタースピードを上げて対応できますが、(それでも体勢を維持するのは厳しいです)ピントは大変でした・・・オートフォーカスの「クセ」を把握しないとなかなか思うようになりません。
Q:印象的なシーンなどがあれば教えてください。
洋上を巡航している姿は撮影を忘れて見とれてしまうくらいでした。
Q:どのような絵を撮るということは、どの段階で決めるのでしょうか?
先述の通り、事前にリハーサルを行い試験飛行と同じルートを飛行、背景(富士山や伊勢志摩、名古屋ドームを入れたいなど)などを打ち合わせたんですが、リハーサル時とは機体の位置関係が違っていたり、同行随伴機の増加などでリハーサル通りにはいきませんでした。
結果として、「出たとこ勝負」みたいな形になりましたが、なんとか当初の想定に近いカットは押さえることはできました。
空撮現場イメージ
Q:今現在、カメラマンとして撮っているものについて、差し支えない範囲で教えてください。どのようなものを撮るのが好きですか?
好き嫌いはそんなにないです。仕事では機体や部品、あとは人物(記念撮影的)な物が多いです。日常的にカメラ(コンパクト)を持ち歩いてはいますが、そんなに撮らないです。
Q:使用機材について教えてください。気に入っているカメラ、気に入っているレンズはなんですか?
仕事では重量のあるフルサイズ一眼レフ「Canon EOS5D」を使いますが、通常はオートフォーカスもそんなに使わないので、個人的にはフォーカススピードが多少遅くても、もっと軽いミラーレス一眼あたりを使いたいです。最近のセンサーサイズの大きなミラーレス一眼・・・α7あたりを使ってみたいです。
Q:後処理に使っているソフトウェアや、膨大な写真からの選択方法を教えてください。
処理ソフトはフォトショップがやはり業界標準だと思うので・・・。
通常の業務では「下手な鉄砲も・・・」方式では撮らないので、選択に手間は掛かりません。もちろんRAWデータも記録しますが、露出は撮影時にしっかり合わせるのでほとんど使いません。
Q:地上撮影と空撮の違いについて詳しく教えてください。
機材に違いはないけど、普段めったに使わない望遠レンズを使うという点が通常業務との違いですかね。
Q:撮影時に特に気を配っている点などがあったら教えてください。
最近は機材も優秀ですから、撮影で失敗するということはまずありません。気を遣う部分はお客様とのコミュニケーションの部分の方が大きいです。
Q:佐藤さんのカメラマンとしてのキャリアについてお聞きします。
最初に使ったカメラはオリンパスの「OM-1」でした、高校生の頃、なぜか急に欲しくなり、購入しました。ナカシャに入社して写真室に配属されて、カメラマンになりました。カメラ歴は長いけど、そんなに撮っていないです。お金を頂いて撮っているので、プロではあるかもしれませんが、最近のカメラは優秀なので誰でも撮るだけなら撮れます。
イメージ
Q:佐藤さんが所属されている航空技術課1課は、50年ほど前から、写真室、コピー室として長年活動していますが、以前と現在で、写真に対する要求や扱う内容に変化がありましたか?
写真の世界は「フィルム」から「デジタル」に遷移したときに大きく変わりました。
明らかに「品質」の劣っていたデジタルのころはまだよかったのですが、画素数が600万を越えたあたりから明らかに依頼される作業の量が減ってきました。
今までは「失敗」が許されないからプロに頼む・・・これが当たり前だったものが、デジタルで「何度でも撮り直しが利く」、「結果がすぐにわかる」ようになって、わざわざプロに撮ってもらわなくても・・・という風潮になってきたと言えます。
その中で、「それでもプロに依頼しよう」と思ってもらうためには、「やっぱり自分たちで撮ったモノとは数段出来が違う」と思ってもらえるような圧倒的に高品質なものが必要になってきました。
撮影機材の進化のスピードは凄まじい、しかしそのスピードを上回る技術力・・・それが今、そしてこれからの「写真室」を支えていく礎だと思っています。
Q:お客様から必要とされる写真と自分が撮りたい写真に差異はありますか?
「プロ」は自分の撮りたい写真ではなくて「顧客の要求する写真」を撮るので、あまり考えたことはありません。
大事なのは先にも述べた「コミュニケーション」です。お客様がどのような「写真」を望んでいるのかは、しっかりとしたコミュニケーションをとらないと理解できませんから。