トップページ > 技術の小窓 > 資料整理/「使える目録」とは?
文化情報部 技術課 高橋 浩明
私は弊社に来る前にある地方自治体の文書館に勤務し、資料翻刻・資料整理や自治体史の編纂に携わってきました。文書館ですから雑多な資料がまいります。所謂近世の地方文書だけでなく、近代の戸長役場文書や地主・商家などの私家文書、さらに行政文書、はては文豪の草稿や書籍などの個人コレクション。また民具に位置づけられるような身辺具など様々な資料が集められてきました。それ以外にも蔵やお宅などの調査もさせていただきました。そういった経験をもとに弊社で資料整理を担当しております。
私が文書館にいたその頃から総合的な調査(ちょっと大げさですが)というか、私家文書の一部だけの調査・収集ではなく、資料群としての調査・整理が行われるようになり、資料の現状記録や段階的な整理といった方法を意識した調査を行うようになってきました。
弊社ではさすがに蔵の調査を行うということはありませんが、博物館や資料館などで所蔵する近世地方文書・近現代文書のみならず、民具・身辺具などの未整理資料の整理をさせていただいてまいりました。
最終的な成果品というのは目録作成ということになります。このことについては今から約10年程前の日本歴史学協会主催のシンポジウムで宮地正人さん(当時東京大学史料編纂所所長、のち国立歴史民俗博物館館長)が講演(「現段階における史料学の課題」)の中で述べられたことがずっとひっかかっております。宮地さんは研究をする人間が利用するに足る史料目録が作れるのだろうかということを述べられ、論文一本を書くより、ひとまとまりの史料群の目録を作成する方が困難でかつ有益であるとされました。さらにどのような基準で史料目録を作るのかという点について@原本通りに取るべきか、A共通して取るものをどこに置くか、B最低限の内容摘記はどれか、Cデータベースの標準化という点を課題としてあげられました。
この講演を聞いて以来、果たして役に立つ目録とはどういうものなのだろうかということを考え続けています。資料整理をする際には、その資料群によって特別取らなければならない情報もあるかとは思いますが、資料から取るべき情報というのはだいたい決まっているのではないかと思われます。差別化といっても限界があり、この点についてはまだまだ検討していかないといけないことです。
それとかかわることがデータベース化、よりいえば検索システムの充実ということを客先から要望されることが多くあります。民具・身辺具などについては資料群をどういった項目を立てて分類すれば、資料群の全体像がわかり、かつ検索が容易になるのかということに頭を悩ませることがあります。そのためには資料群の充分な調査、及び資料群がそこに残され、管理されてきた背景なども調べる必要となります。恐らく自治体の文化財担当の方や博物館・資料館等の学芸員の方も同じだと思いますが、残念ながら十分な調査・研究時間が取れません。会社としては初めから契約期間は決まっており、それを遵守せねばなりません。必然的に決められた時間内に出来る範囲でどれだけのことが出来るか、時間との勝負になります。一度かかわった資料に再び遭遇するという機会はまずないでしょう。それ故にこそ、これからも資料に真摯に向き合って行きたいと思っております。
【プロフィール】
高橋 浩明 (たかはし・ひろあき) 文化情報部 技術課
1960年、東京都生まれ。
1986年、國學院大學大学院文学研究科日本史学専攻博士課程前期修了。(日本古代史)
國學院大學助手(博物館学研究室)、葛飾区教育委員会学芸員(文化財担当)、藤沢市文書館資料専門員などを経て、2004年、ナカシャクリエイテブ株式会社に入社し、資料整理・展示・古文書翻刻などを担当している。
歴史学研究会・全日本博物館学会・全国歴史資料保存利用機関連絡協議会等会員。
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